エンロン破綻と簿外取引

Restatementについて

2001年11月8日、エンロンは1997年度から2000年度及び2001年度の第2四半期までの財務諸表の修正("Restatement")を行いました。このRestatementにより569百万ドル(約700百億円)の利益が減少しました。また、2000年12月31日時点での資産が720百万ドル(約870億円)減少し、負債が628百万ドル(約760億円)増加し、さらに株主持分はなんと1,200百万ドル(約1500億円)も減少してしまいました。

Restatement時の発表によると、これは以下を財務諸表に反映させたためとされています。
@ 手形(Note Receivable)を対価とした増資に関する会計処理の誤りの修正した(資産と資本のグロスアップをやめた)。
A 従来連結の対象としていなかった3つのSPE(特別目的企業体)を連結の対象とした(注:これが一般に簿外取引といわれているものです)。このうち2つが利益減少の要因となっています。
B 従来帳簿上修正されていなかった監査差異を計上した。
なお、利益修正額の要因ごとの大まかな内訳は次の通りです。
SPE(Chewco)を遡って連結 約400百万ドルの利益減少
SPE(LJM1)を遡って連結 約100百万ドルの利益減少
過去にパスされていた監査差異の計上 約50百万ドルの利益減少
合計(ラフな数字なので合計は一致しません) 569百万ドルの利益減少

エンロンは、新たに連結の対象となった3つを含むSPEの業務内容を要約したものも合わせて公表しました。連結された3つのSPE以外については引き続き調査の対象となっているようです。3つのSPEのうち従来の利益修正の要因となったのは、2つのSPEであり、いずれも投資目的で設立したリミテッドパートナーシップでジェネラルパートナーであるマネージメントはエンロンの前CFO(2001年7月にエンロンを退社)だったようです。

それでは次に監査人であったAndersenの上記に対する説明をまとめます。

Andersenの説明


以下は主にAndersenのCEOであるBerardino氏が議会で行った証言に基づいたものです。なおBerardino氏の説明はいくつかの点でエンロンの主張と異なっております。

1)Restatementの要因となった2つのSPEについて

2つのうち小さい方のSPE(LJM1)については連結の対象から外すことを認めたのは明らかにAndersenのミスであったと認めています。しかし、大きい方SPE(Chewco)については、連結の必要性を判断するにあたって必要となる情報が十分にエンロン側から提供されていなかったと主張しています。表面上は外部からEquityが拠出されているため、連結除外の判断を行ったが、実は金融機関との間で(外部からの)拠出資本の半分をエンロンが現金で担保する覚書(side agreement)が交わされていたということです(注:このような覚書の存在は連結除外のための要件を満たさないものです)。なお、このようなBerardino氏の主張については、その後Andersenのスポークスマンは「必ずしも全て正確だったとはいえないかもしれない」旨の発言を行っています。エンロンに関してはAndersen内部でも調査が継続的な調査が行われており、調査が進むにつれて新たな事実が明らかになってきているのでしょう。

2)過去にパスされていた監査差異について

まず、この前提として、そもそも監査差異とは何か、またパスされていたとはどういうことか説明します。監査差異は会計監査を行った結果判明した差異(あるべき金額と帳簿上計上された金額差異)です。監査人としては極力正しい金額を財務諸表上反映してもらうようにしますが、その修正をパスすることがあります。それはその差異が「重要性がない」と判断される場合です。エンロンのケースでは1997年に51百万ドルの監査差異がありましたが、Andersenはこれを重要性がないと判断し、修正を見送ったものです。この年の利益は105百万ドルで監査差異は約50%に相当しますが、1997年は通常の年度よりも特別な事情で利益が低かったことから、Andersenは過去3年間の平均利益(約500百万ドル)をベースとして51百万ドルについて「重要性がないと」という判断を行ったようです。仮に重要性の判断のベースとする利益を平均利益である500百万ドルにしたとしても、51百万ドル(約10%相当)を「重要性がない」と判断することについて(特に監査関係者以外の人にとっては)納得がいかないかもしれません。

参考>AndersenのEnron問題についてのStatement等のHP