FAS121

FAS121とは? 長期性固定資産についての評価減の処理を定めた会計基準。どういう場合に評価減の必要性の有無を検討しなければならないか、またどのように評価減の検討を行うか等について定められている。簡単に言えば、将来キャッシュフローが固定資産の簿価を下回る場合に時価まで評価減をしなければならない。
<対象> 
有形固定資産(Long-lived assets)、無形固定資産(特許権、商標権、著作権、顧客リスト等)、営業権が対象である(Par.3)。なおFAS121で対象としている長期性資産は@営業の用に供しているもの(”used in operations”)及びA売却目的で保有するもの(“to be disposed of”)であり、これに該当しないもの例えば絵画、ゴルフ会員権等はFAS121の対象とはならないと解される。これらについては、資産評価の一般原則(明確な基準があるわけではないが)に基いて減損処理される場合がある。
<処理概略>

I. 使用目的で保有している長期性資産(有形・無形固定資産)

  • Impairment(減損)のIndication(兆候)の有無を把握する。
  • 評価減の必要性を検討する。
  • 評価減を行い、公正価値まで簿価を切り下げる。
    具体的手順参照


II. 営業権
-FAS144により除外、FAS142を参照

III. 除却予定の長期性資産

公正価値から除却費用を差し引いた価額(=回収可能価額)まで簿価を切り下げる。

 

<具体的手順等>

I 保有・使用目的の長期性資産(有形固定資産・無形)

  • Impairment(減損)のIndication(兆候)の有無の把握
FAS121では減損の兆候が生じている場合には評価減の検討を行うように求めている (Par.4)。逆にいえば、そうした兆候がない場合は評価減必要性の検討(=キャッシュフローの見積)は不要ということになる。
  • Indicationとしてあげられている例(Par.5)
  • 資産の市場価値の大幅な下落
  • 資産の使用の程度・態様に大きな変化が生じた場合(具体例:製造設備の稼働率が急激に減少した)
  • 法律上あるいはビジネス情勢等において、会社にとって不利な変化が生じた場合
  • 取得・建設のためのコストが当初予定していた金額を著しく超過している場合
  • その他
  • 評価減の必要性の検討
 Indicationが存在する場合、次に評価減の必要性を検討する(Par.6)。
(1) 手順は以下の通りである。
  1. 資産をグループ分けする(グルーピングの単位は個別キャッシュフローと関連付けられる限度で細かくする)。
  2. 資産または資産グループからのキャッシュフロー(割引前)を見積もる。(キャッシュフローは資産の使用によりもたらされるもの及び最終的な処分からのもので構成される)
  3. .見積もったキャッシュフロー(割引前)と簿価を比較して、キャッシュフローが簿価を下回る場合、Impairmentが発生していると判断される。
(2) グルーピングの考え方
  1. 検討はできるだけ個別資産単位で行う(“at the lowest level of asset groupings” Par.8)。ただし対応するキャッシュフローが認識される程度までグルーピングを行う必要性がある(←キャッシュフローを見積もって評価減の必要性を検討するため)。
  2. どの様にグルーピングするかは、事実関係及び諸事情を考慮して判断する必要がある。
  3. 合理的な理由があればより大きなグルーピング(“higher level of asset groupings”)が認められる。

(3) キャッシュフローの見積りについて
  1. 将来のキャッシュフローは稼動・使用することにより得られるもの及び最終的な処分によるものからなる。例えば、今後10年間使用する設備について、毎年当該設備使用から100のキャッシュフローが見込まれ、最終的に500で売却が見込まれているようなケースでは、将来キャッシュフローは1,500(100 X 10+500)と計算される。
  2. FAS121ではキャッシュフローの見積にあたっては利用可能な全ての証拠を検討にいれるべきである(all available evidence should be considered)としている。ただし、通常見積の対象期間は長期にわたるため、判断(judgement)の要素が大きくなり、きわめて主観的なものとならざるを得ず、これについてはFASBも認識しているところである。
  3. キャッシュフローの見積にあたっては、何年先のキャッシュフローまで考慮するかが重要となる。基本的には残存償却期間(残存耐用年数)を用いるが、合理的な理由があれば残存償却期間と異なる期間を用いることも可能と解される。
  4. キャッシュフローの見積にあたっては、当該資産についての経営者の意思も考慮する必要がある。賃貸しているビルの耐用年数が後20年残っていたとしても、経営者が5年間賃貸した後売却を意図しているならば、キャッシュフローは5年間で見積もる必要がある(5年間の賃貸収入+売却価額)。

(4) 対応するキャッシュフローを認識できない資産
FASBもある種の資産については対応するキャッシュフローを認識できないことがあることを了解している(例:本社ビル)。これらについては、会社全体(entity-wide-level)で評価減の必要性を検討する(Par.100*下記原文参照)。具体的には会社全体でのキャッシュフローと同社の全資産の簿価とを比較することとなる。

Par.100原文(抜粋)

The Board concluded that the recoverability test in paragraph 6 should be performed at the entity level if an asset does not have identifiable cash flows lower than the entity level. The cash flows used in the recoverability test should be reduced by the carrying amounts of the entity's other assets that are covered by this Statement to arrive at the cash flows expected to contribute to the recoverability of the asset being tested.

  • 評価減の実施
 Fair Value(公正価額)まで評価減を行う。評価減後の簿価は新しいコスト(取得原価)とみなされる。

1. 公正価額の算定

  • 市場価格 (“a quoted market price”)
  • 市場価格がない場合は公正価額を見積もる必要がある。例えば、将来キャッシュフローの割引現在価値等があげられる。


2. 評価減の会計処理
公正価額まで評価減を実施した場合、当該価額は新しい取得原価として扱われる(Par.11)。FAS121ではふれられていないが、公正価額を新たな取得原価 (Cost)として、これまで計上してきた減価償却累計額を全額落とす処理が考えられる。