FAS123
ストックオプションの会計処理
FAS123は自社の株式をベースとする報酬についての会計基準であり、ストックオプションについての会計基準として有名です。これは1995年に発行されています。

ストックオプションについては従来APB25という会計基準があり、これは後に解説する「本源的価値法」(intrinsic value method)を採用していましたが、FAS123は「公正価値法 」(fair value method)を採用しました。ただし、基準の原案段階では公正価値法の適用を強制していたのが、最終的にはFAS123の全面適用が望ましいとしながらも、従来どおりのAPB25の適用を続けることを認めてしまいました。その代わり、APB25の適用を続ける企業については注記情報として、FAS125を適用した場合の影響額を開示することを求めています。

FAS123は従来のAPB25の処理の問題を修正する意図でつくられたものです。APB25は本源的価値法によりストックオプションのコストを測定することとしていましたが、この場合のコストは測定日におけるストックオプションの本源的価値をさします。ここで測定日とは行使価格及び受け取る株式の株数が確定した日(一般的にはオプションの付与日と同じ)をいい、本源的価値とは市場価格が行使価格を超過する金額をいいます。

すなわち、本源的価値 = 市場価格 - 行使価格 です。

大部分のストックオプションは測定日での本源的価値はゼロになっているため(通常行使価格は測定日の市場価格となっている)、APB25を採用している限りオプションのコストはゼロになり、結果的に費用も計上されないことになります。

他方、FAS123を採用した場合(現状では少数派です)はオプションの公正価値がコストになり、それが費用として計上されていきます。オプションの公正価値はブラック・ショールズモデルのようなオプション・プライスモデルにより計算されることとなります(非公開会社ではミニマム・バリュー法という公正価値法の簡便的な方法が認められています)。なお、仮にAPB25を引き続き適用する企業でも前述の通り影響額の注記開示が必要なため、本源的価値法で会計処理を行う一方で、やはりオプションの公正価値の算出は必要となります。

以下は公正価値法のアプローチを示し、また本源的価値法とどのような違いが生じるかを示すための単純化した例示です。いま、ある公開会社が従業員に対して900,000株を10ドルで購入できるオプションを付与したケースを考えます。この株式の市場価格はオプションの付与日において10ドルで、またオプションモデルで計算したところ付与日におけるオプションの公正価値は3ドルであったと仮定します。これらを前提とすると費用計上額は以下の通りとなります。
本源的価値法 公正価値法
本源的価値 (10ドル-10ドル) 0ドル
従業員報酬費用 0ドル
公正価値 2,700,000ドル
従業員報酬費用 2,700,000ドル
数値例はこちら
公正価値の算出
ストックオプションに公正価値法を適用する場合の一番の実務上の問題は、通常当該オプションは市場で売買されるものでないため、その公正価値の市場価格が得られないことです。このため、各企業は何らかのバリュエーション・テクニックを用いてオプションの公正価値を見積もる必要が生じてきます。

オプションの公正価値を見積もるためには、株式及びオプションの行使時期に関して主観的な仮定をおく必要があり、これらの仮定はオプションに係る他の客観的な情報と一緒にオプションのプライシングモデルで使用されることになります。FAS123では次の6つの要素をオプション・プライシングモデルで使用することを求めています。
  1. 付与日における株式の市場価格
  2. オプションの行使価格
  3. オプション期間における見積配当率
  4. オプション期間における見積株価変動率
  5. オプションの見積残存期間
  6. オプション期間に応じた無リスク利子率
上記の付与日現在の仮定は、その後実際値が明らかになっても調整する必要がなく、従ってオプション価格は付与日現在で見積るだけでよく、事後的な再計算はする必要がありません(なお、当初のFAS123の原案では毎期公正価値を最新の仮定に基づきやり直すことを求めていました)。
オプション・プライシングモデル
上述の通り、オプション・プライシングモデルではいろいろな仮定を用いる必要があり、それぞれの仮定は公正価値の見積結果に大きな影響を有するものです。このため、同様なストックオプション・プランを有する2つの会社が、それぞれの仮定値の違いにより全く異なった公正価値ひいては費用を計上する可能性もあります。このため、使用する仮定値を決定するためには慎重な検討をすることが要求されるわけです。
以下の表は6つの要素が動いた場合に公正価値の見積にどのような影響が出るかを示すものです。
もしこれが大きくなると… 公正価値の見積額は…
株式の市場価格
オプションの行使価格
見積配当率
見積株価変動率
見積残存期間
無リスク利子率
高くなる
低くなる
低くなる
高くなる
高くなる
高くなる