FAS141&142

これまでの実務からの変更点 1. 企業結合の処理としては従来認められていた「持分プーリング法」が廃止され、「パーチェス法」に統一されました。(FAS141による)

2.従来一定の償却年数で償却する処理が行われてきた営業権(Goodwill)の償却が認められなくなり、代わって毎期(あるいはより高い頻度で)減損テストを行い、減損が認められるときには即座にロスを認識する処理に変更されました。(FAS142による)

3. 営業権(Goodwill)以外の無形資産についても、経済耐用年数が不明確なものは償却を行わず、営業権と同様、減損発生時に一括してロスを認識することとなりました
(FAS142による)

従来の会計処理との比較

項  目 従来の企業結合会計 (APB16) 新企業結合会計 (FAS141&142)
企業結合の会計処理 パーチェス法か持分プーリング法(一定の要件を満たした場合のみ)のいずれかの会計処理を適用 全ての企業結合にパーチェス法のみを適用
営業権の会計処理 20年を超えない期間で毎期償却して費用計上 償却は行わず、その代わり毎期減損テストを行い、減損が認められる場合はロスを認識する。
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パーチェス法と持分プーリング法の比較

会計処理を比較してまとめると以下のようになります。

企業結合会計 企業結合の見方 会計処理
パーチェス法 文字通り、一方の会社が他方の会社を購入したと考える。 非買収会社(買収された会社)の資産・負債について時価評価をした上で、買収会社のB/Sに加える。買収対価が非買収会社の時価ベースでの純資産を超過する場合、その超過額は営業権(Goodwill)として計上される。
持分プーリング法 一方の会社が他方の会社を購入したとは考えず、両社が融合したと考える。 両社の資産・負債は簿価で新会社に引き継がれる。

持分プーリング法の廃止

従来の企業結合の会計処理はAPB16"Business Combinations"で規定されていましたが、これによると類似した2つの企業結合取引について、パーチェス法で処理される場合と持分プーリング法で処理される場合とで会計処理結果が大きく異なってしまうことになり、「投資家を混乱させる」として問題視されていました。持分プーリング法については、「本来パーチェス法で処理される企業結合まで持分プーリング法で処理されいる」として「持分プーリング法は廃止すべきである」という立場と、「企業結合の態様によっては持分プーリング法の適用が妥当である」として「持分プーリング法は存続させるべきである」という立場があり、長い間論争が行われてきたところです。今回発行されたFAS141はこの点について、持分プーリング法を廃止し全ての企業結合についてはパーチェス法を採用することとし、この論争に終止符をうったものです。なお、パーチェス法は必ず会計処理上、「買収した会社」と「買収された会社」とを判別する必要があります。よく日本で多く見られる。いわゆる「対等合併」の場合も会計処理を行うにあたっては「買収会社」と「非買収会社」との識別を行う必要があります。

買収会社と非買収会社の識別

パーチェス法の適用においては、必ず買収した会社と買収された会社を識別する必要があります(これは法律上の存続会社と消滅会社と必ずしも一致する必然性はありません)。従来のAPB16では、この判断は新会社における株主の議決権の数を重視していました。例えばA社とB社が合併したとして、旧A社株主の新会社における議決権総数が旧B社の議決権総数よりも多ければ、この合併はA社によるB社の買収と判断されることになります。FAS141ではこれに加えて、新会社の取締役あるいは役員の構成等も考慮して、どちらが買収会社かの判断を行うこととしています。

営業権の会計処理

従来営業権は20年を超えない期間で毎期均等償却を行うこととされていました。FAS142はこれを大きく変更し、営業権の償却は行わないないこととし、その代わり減損テスト(Impairment test)を行い減損が認められる場合に当該減損額を損失計上するというアプローチを採用しました。

減損テストの方法

減損テストは以下に説明する2つのステップにより行います。

【ステップ1】
まず報告単位(Reporting Unit)全体の時価を算出して、簿価と比較します。報告単位とはFAS131で規定される「セグメント」かその下のレベルの事業単位と定義されています。もし、ここで時価が簿価を下回っている場合は次のステップ2に進みます。

【ステップ2】
ステップ2では営業権がどれだけ減損しているかを測定します。具体的には、@報告単位の時価(ステップ1で使用した価額)と認識済みの純資産の時価評価額に未認識の無形固定資産の時価評価額を加えたものと比較し、理論上の営業権評価額を算出し、A理論上の営業権評価額と営業権の計上額を比較して減損額を算出する、というプロセスになります。非常に分かりにくいと思われますが、次の数値例を参考にしてください。

減損テストの数値例

前提:評価対象となるA社(報告単位)の簿価ベースの純資産が125でうち営業権が25計上されていたとします。

【ステップ1】
評価(Valuation)を行った結果、A社の全体としての時価は120と測定されたとします。この結果A社の時価(120)は簿価(125)を下回っていることが判明したため、ステップ2に進み営業権減損額の測定を行うこととなります。

【ステップ2】
次にA社の認識済みの純資産の時価評価額に未認識の無形固定資産の時価評価額を加えたものを算出します。その結果が以下の通りとなったとします。

純資産の時価評価額(BSに計上されている資産・負債を時価評価して算出した純資産) 100
未認識の無形固定資産の時価評価額(BSに計上されていない無形固定資産の時価評価額) 5
         合  計 105

この合計額(105)とA社全体としての時価(120)の差額が理論上の営業権評価額となります。従って営業権評価額は15 (120-105)となるわけです。最後にこの営業権評価額と営業権計上額を比較することで減損額を算出します。結果的に減損額は以下の通りとなります。

理論上の営業権評価額 15
△営業権計上額 25
減損額 △10

なお、この減損テストは少なくとも年に1度は実施する必要があります。さらに期中でも、減損が生じる可能性がある事件あるいは環境の変化があった場合は減損テストを行う必要があります。なお、減損テストのために必要な報告単位全体としての時価(上記の例ではA社の時価)は、M&Aの際に買収価格の交渉のために行うValuationの手法を用いて算出することになると思われます。