Pension (年金会計) - FAS87

給付建退職年金の会計処理

*主たる対象は給付建退職年金制度です。いわゆる410Kプランは拠出建退職年金制度であり、これは単純に拠出した額を費用計上すればよいことになります。  

年金特有の債務の種類

年金債務には以下のようなものがあります。
Vested Benefit Obligation ( VBO) 特に使用しません
Accumulated Benefit Obligation (ABO) B/S計算に使用します
Projected Benefit Obligation (PBO) P/L計算に使用します
いずれも、将来の年金の給付額の現在価値ですが、将来の年金の支払額の算定のベースが異なっています。以下を参照してください。
まず、年金給付のPresent Valueを算定のために必要な要素と年金債務は以下の通りです。
退職年度(何時・何歳で退職するのか?) @
死亡年度(何時・何歳までに給付を行うのか?) A
年金の金額 勤続年数 B
ベースとなる給与 C

次に以下が、上記の算定要素と各年金債務の関係です。
@ A B C
VBO 見積 見積 現時点 現時点
ABO 見積 見積 見積 現時点
PBO 見積 見積 見積 見積
通常、ベース給与は勤務年数が増えればアップするので、PBOはABOよりも大きくなるのが一般的です。ちなみに日本の退職年金会計基準ではこのABOに相当する概念は出てきません。理論的にはB/SもP/LもPBOをベースに計算すればよいのですが、FAS87でB/S計算にABOを使用するのは、ある種妥協の産物であるともいえます。

年金費用の算出

年金費用は以下の要素から構成されます。Actual Return on Plan Assets(年金資産からの収益)は年金費用をマイナスにする方向に働きます。
+ Service cost
+ Interest on PBO
- Actual return on Plan Assets
+ Amortization of Prior Service Cost
+ Amortization or Deferral of Gain/Loss
Total ( Pension cost)
  1. Service Cost
「労働のサービスを提供することによるPBOの増加分」
参考:PBOの増減は以下の様に分解されますが、Service CostがPBOの増加要素だというのが分かると思います。PBOおよびService Costは通常年金数理人に計算してもらいます。おおざっぱに言えば、Serive Costというのは将来の年金債務(PBO)のうち当期に負担されるべきものということになります。どうやって当期負担分を計算するのかについては、いくつかの考え方がありますが省略します。
期首PBO
当期のService Cost(将来のPBOの当期負担分)
Interest expense(期首PBOに割引率をかけて算出)
当期給付額(給付が行われれば債務は当然減ります)
±

見積もりの修正 (Gain / Loss)
(PBOは見積で出しますから、当然見積と実際の差が生じます)

± 制度の新設・改訂 ( Prior Service Cost)
(制度が変われば将来の給付も変わります)
期末PBO

  2.Interest on PBO

「PBOの時の経過による増加額 “Increase in the PBO due to the passage of time”」
計算方法は以下の通りです。
PBOの期首残高 X Discount rate(割引率)
PBOは将来の給付額を現在価値に割引いたものです。したがって、時の経過とともにPBO自体が増加していきます。 

  3.Actual Return on Plan Pension Assets

「Plan Assetsの運用益(Expenseのマイナス項目)」
年金資産から収益があがれば、当然会社の負担は減ります。

  4. Unrealized Gain / Loss

見積もりと実際の差異
見積と実際の際はある限度に達するまでは償却しなくともよいことになっています。これはFAS87の大きな特徴であり、一般に“コリドール・アプローチ”と呼ばれています。コリドール・アプローチでは、期首現在において、Unrealized gain / lossの残高がPBOかMarket related assets value(市場関連資産価額?)の どちらか大きい方の10%を超過している場合にのみ、その超過分を従業員の残存勤務年数で償却することになります。ちなみに“Market related assets value”とはPlan Assets(年金資産)のFair Value(時価)と考えておけばよいでしょう。
*超過額償却の計算方法
Unrealized Gain /Loss - (PBOかMarket related assets valueの どちらか大きい方)X 10%

  DUnrealized Prior Service Cost

Prior Service Cost(いわゆる過去勤務費用)が発生する原因として 年金制度の新設(Establishment)、年金制度の改訂( Amendment)が考えられます。年金制度の新設・改訂により増加したPBOの額は、 将来にわたって償却していく(Pension expenseに計上していく)ことになります。償却期間は、従業員の残存勤務年数が原則ですが、それが15年未満の場合は、15年で償却することが認められています。この15年も産業界の要望を受容れた妥協の産物です。

  

会計処理(BookへのEntry) 

帳簿への記帳はきわめて単純です。

年金費用計上時 Dr Pension expense xxx Cr Accrued / Prepaid pension cost xxx

Fundへの拠出時 Dr Accrued / Prepaid pension cost xxx Cr Cash等 xxx

上記の結果、Accrued/ PrepaidがDebit Balanceになったら Prepaid pension cost(前払年金費用)で、Credit Balanceになったら Accrued pension cost(未払年金費用)となります。ただし、この残高が最終的なB/S計上額とならない場合があります。次の項目を参照してください。

B/Sに計上されるPension Liability 

年金費用計上とFundへの支出の仕訳は上述の通りですが、それがそのままB/Sの数字とならないケースがあります。年金費用はPBOベースで計算されますが、B/Sの計算はABOをベースにするというのがまさにこれです。別の言い方をすれば、 B/S計上される、年金債務の算出はは,P/Lの年金費用の計算と独立し て行われるともいえるでしょう。
結論から言うと、B/S上の年金債務は、かならず、「ABO−年金資産の公正価値」以上計上されればならない、ということです。なお、「ABO−年金資産の公正価値」は"Unfunded ABO"と呼ばれます。
まず、帳簿上、Pension expenseの計上とCashの拠出によって、100の未払年金費用 が計上されているとしましょう。仮に「ABO−年金資産の公正価値」が150であれば、50だけ債務額を追加させることになります。この50追加額はAdditional Pension Liabiliteyといいます。なお、「ABO−年金資産の公正価値」は最低でもB/Sに計上されなければならない債務という意味で、Additional Pension Liabilityと呼ばれます。 

では、追加で債務を計上するとして、その相手勘定は何になるのでしょうか?まず相手勘定は費用勘定ではなく、無形固定資産(Intangible Assets)とします。なぜ、無形固定資産になるかは一見分かりにくいのですが、未認識の過去勤務費用をB/S計上するという意味となります。そのため、未償却(=未認識)過去勤務債務の残高が無形固定資産の計上の限度額となります。仮に、追加債務額が無形固定資産の計上限度額を超過した場合は、その超過額が資本の部のマイナス項目として処理されます。この資本の部のマイナス項目は、外貨建財務諸表の換算から生じる、為替換算差額(Translation Adjustment)やFAS115の有価証券時価評価から生じる未認識評価損益(Unrecognized gain/loss)と同じ性質の勘定で、いわゆる包括利益に関係するものです。